万年筆は、紙に書いたとき、かすれない状態が基本です。
かすれ、とは、ペン先から出たインキが紙に乗らなかったり(広義のかすれ)や、点線のような描線となって紙へのインキ出が極端に少ないこと(狭義のかすれ)を言います。
しかし、書いていて、どうも紙にインキが乗らないことがあります。
その場合は、以下のようなケースが考えられます
A インキ出が少なすぎる設定の場合
お使いになる方の筆圧にインキ出がマッチしていないことによります。インキ出を改善することにより、良くなります。
かすれが起きる場合のうち、このインキ出設定に因る場合がもっとも多く、インキ出が悪いことがすなわち「かすれ」、狭義のかすれと言えます。当然ペン先の太さは関係ありません。インキ出設定の問題です。インキ出設定が原因ですと、書き出しのみならず、書き続けて常にインキ出が悪い状態になります。極端にインキ出が悪いと、広義のかすれ、のように、全く紙にインキが出ないことがあります。
当方で、
かすれない、という調整希望項目がありますが、それはこのインキ出のことを指しています
以下の項目(ひねり許容性など)は、ひねり許容性が無いように、などという個別の御希望が無くても、そもそもあってはならないか、ない方が望ましく、チェックしてから出荷すべきと考えます。
かすれ原因がこのインキ出設定である場合は、書き込んでも状況は良くなりません(
詳細過去記事)。
B ひねり許容性
何度かご説明している内容です。
詳細は、以下をご覧ください。
http://masahiro14k.blog67.fc2.com/blog-entry-293.html B以上の太いペン先にのみ起きる現象で、先端形状とお使いになる方の持ち方の相関関係が合っていない場合に起こる問題です。
軽度な場合は、書き出しのみ起きる現象ですが、多くの場合、しばらく書き続けてもインキが紙に乗ってくれない状態のままです。
逆に言えば、太字ペン先の調整は非常に大変なのです。
もし、ひねり許容性が改善できないならば、「そのペン先に合わせた」持ち方をして頂かないと、使うことは出来ないということになります。使い手がペン先に支配されなければならないのです。
広範な持ち方に対応でき、ひねり許容性を広くするような先端形状にすることは可能です(私自身はそれがベストだと思っています)。ひねり許容性問題が出ているからといって、お使いになる方の持ち方に限定した先端に変えてしまうこと(平らに落としたり、斜めに削ったり)は、感心しません。そのようなことをしなくても十分に改善は可能だからです。
当方では、
検品調整スタンスのもと、このひねり許容性も、良い状態であることを確認してお送りしています。従って、このB項目は、お使いになる方は特にご心配入りませんし、修理以外は、別途御希望としてお寄せ頂く必要はありません。
ただし、独特の筆記描線を出すために
独特の先端形状にあえてした場合は、改善が難しい、あえてひねり許容性の改善をしない(改善すると独特の筆記描線が変わってしまう)ことがあります(このことから、私は、修理ご依頼で、
スタブ形状に調整することなどはあまりお勧めしていません)。
かすれ原因がひねり許容性問題で有る場合、理論的には書き込んで状況は良くなりますが、良くなるまでは、相当な年月が必要でしょう。現在のように万年筆の使用頻度が少ない時代では、状況が改善されるまで使い込むことが不可能と言った方がいいかもしれませんし、そもそも、ひねり許容性が出ている万年筆自体、嫌気がさして、使用頻度は減るのではないでしょうか(購入時から状態が良いのが何より理想です)。
C 書き味調整手法のミスマッチ
書き味を良くするために、ペン先先端を調整する手法はいくつかの方法がありますが、必要以上に行ないすぎて、紙にインキが乗らない場合があります。
この現象の場合、重症の場合を除き、ほとんどは、書き出しのみインキが紙に乗らず、一次的に筆圧強く書くと、インキは紙に乗り、そのあとは、書き続ける限り、割と問題無く使えます。しかし、しばらく筆記を中断したあと、再び書き始めると、インキは紙に乗らない〜紙に乗る〜書き続ける限りは問題無く書ける、という状態です。
これは、M以上の太いペン先に起きやすい現象ですが、細いペン先でも起きることが希にあります。
前項Bのひねり許容性が問題なくても、書き味調整手法が悪い場合は、やはり書き出しにインキは紙に乗りません。
唯一、この書き味調整手法のミスマッチの場合は、先端形状が摩耗するほど書き込むことによって、改善はされます。ただ、そのためには、かなりの年月が必要でしょう。先端形状の摩耗といっても、意図的に砥石などで行なうことは厳禁です。そのようなことをすると、ミスマッチ程度で済んでいたものが、異常に発展します。
書き味調整手法は、メーカーや調整者によって大きく異なります。調整者は、作り出す書き味のみならず、このような、書き出しインキ出に問題のない調整をしなければならないわけです。
書き味調整手法のミスマッチは、ひねり許容性問題と区別がつかない場合もありますし、両者が複合的に影響を与えてしまっていることも多いです。
D ペン先先端がすぐに乾きやすいインキを使用したことによる書き出しにインキが紙にのらない現象
これは
同名の過去記事の通りです。そこに記したような改善方法をお試し頂くか、インキを変えるしかありません。根本的な調整は、出来る場合もありますが、原因が原因なので、基本的には改善は難しく、詳細はご相談頂くしかありません。
表題通り、書き出しのみに起きる現象です。筆記を中断しても、先端のインキが乾かないうちに再び書き始めれば、書き出しにインキが紙に乗らないことはありません。
もっとも、およそ万年筆ならば、キャップを外してしばらく放置すると、乾きやすいインキでなくても、ペン先先端のインキが乾き、書き出しが書けないことあります。この点は、万年筆にとって必然です。ただ、その乾きやすさも、インキによって差はあります。キャップを外して長く放置してもペン先先端で乾きにくく、書き出せるインキのほうがよいインキというわけではありません。キャップを外していても、筆記していれば、ペン先ペン芯にインキが流れているから良いのですが、筆記していない場合は、インキは流れず、その状態で放置することは、そもそも好ましいことではないのです。キャップを外して放置した場合は、ペン先ペン芯のインキは濃くなっていて、詰まり等のトラブルにつながりかねませんし、濃くなったインキは、書いていて、紙ににじみやすかったりします。
キャップはマメにするのがベストです。
上記AからD、どれが原因かは、こちらで書いてみたり、ルーペで見れば一目でわかります(後述のように、一般的には見分けは実は非常に困難です)。
ペン先から出たインキが紙に乗らないケース(広義のかすれ)は、上記のBやCが原因であることが多く、点線のような描線となって紙へのインキ出が極端に少ない(狭義のかすれ)のは、上記のAやDが原因であることが多いです。
しかし、原因A、すなわちインキ出を極端に絞ったものを弱い筆圧で書いた場合は、ペン先から出たインキは紙に乗りません。その場合筆圧を強く書けばインキは出ますが、筆圧を強く書けば改善されるのは、他の原因でも言えることではあります。
使い込んだ商品でしたら、たとえば、ペン芯溝が詰まっていれば、当然インキは出ませんし、かすれも起きます。
かすれについては、原因を探ることが必要です。かすれるかすれるというお客様の万年筆が、ひねり許容性の問題であれば、インキ出が多い設定になっていても、決して紙にインキは乗りません。
今回書いた内容は、ご覧頂いた方のご自身で修理なさる場合の参考に記した訳ではありません。逆に言うと、たった一つの事象でも、様々な原因があり、如何に原因を探るのが難しいか、ということを知って頂ければ幸いです。
当方での販売品はかなり神経を使ってチェックして出荷しています。
その他、検品調整スタンスの詳細については、
http://masahiro14k.blog67.fc2.com/blog-entry-286.htmlを是非ご覧ください。
ペン先字幅については、
こちらをご覧ください。本文中の字幅記号は上記のページの一覧に記載のパイロットの字幅基準に基づきます。