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ペン先の調整について-メーカー出荷状態を尊重して

 万年筆の書き味調整について様々なご質問をお受けしております。メーカー出荷状態では駄目なのか、調整を売りにしているお店で購入すべきなのか、等々。
 そこで、今回、万年筆調整について、考えてみたいと思います。

 私は、メーカー出荷状態を何より尊重しています。なんでも調整すれば良いというものではないと思っています。メーカー出荷状態で良いものがあれば、何もする必要はないわけであり、何もする必要がないものをあえて調整する必要などありません。これが大前提です。メーカー出荷状態で良いものがあれば、それが何よりも良いのです。しかしながら、そうでないときもあるので、調整する必要が出てくるのです。書き味がざらつく、ユーザーのひねった持ち方に対する許容性がない、インキ出がユーザーの好みと違う、そういった場合には、調整がどうしても必要になります。
 調整する立場の人にもっとも必要な能力は、メーカー出荷状態を尊重しながら調整することであると思っています。いくら書き味が悪くても、節度を持ってメーカー形状に接し、良い状態に持っていくべきと心得ています。
 以前から言われていることとして、書けば書くほど書き味が良くなる、これは事実です。この点については否定的な見解もありますが、確実に良くなります。ただし、書けば書くほど書き味が良くなるのは、硬いイリジウムのついたペン先だけというのが事実です。

 ペン先先端にはイリジウム合金が溶着してあり、紙に接する部分は、このイリジウム合金です。各メーカーが採用しているイリジウム合金の硬さはやや違いがあります。なんと言ってもパイロットのものは、硬いです。普段接しているのでよくわかります。硬いイリジウムは、書けば書くほど書き味が良くなります。ところが、一部海外メーカーのペン先には、とても柔らかいイリジウムが使われています。柔らかいイリジウムは、調整も容易ですし、ちょっと書いた感じはとても書き味が良いです。新品の状態ではとても書き味も良く、柔らかい印象も持つので、店頭で試された方の印象では、硬いイリジウムの国産品よりは良い評価で語られることが多いです。しかしながら、柔らかいイリジウムの商品は、書けば書くほど書き味が悪くなる傾向にあります。定期的に調整しながら使わなければならないというようなことが言われるようですが、それはこのようなペン先は書き味が持続しないためなのです。

 なぜ書けば書くほど書き味が悪くなるのでしょうか。
 それは、以下のように考えるとわかりやすいです。
 硬いものは、磨けばつやが出ます。そのつやは持続します。柔らかいものは、磨いてもつやが出ないことが多いですし、つやが出たとしても摩擦によってつやがすぐに失われます。紙はきれいに磨く素材というよりは、荒らす素材と言った方が良いものです。柔らかいイリジウムでは、ある程度の量の筆記によって、イリジウム先端が紙の凹凸によって一皮むいたような状態になると、せっかく作り上げたペン先の光沢が失われ、書き味も悪くなってしまいます。これは、私自身使用して来て経験していることでもあります。
 硬いイリジウムの商品は書けば書くほど書き味が良くなるものです。
 ちなみに、ペン先先端は常に自分の顔が映る位ぴかぴかが理想です。いかなる理由があるにせよ、先端を意図的にざらつかせるのは論外であり、私が耳にしたざらつかせる調整をする方のざらつかせる目的は、ざらつかせなくても達成できるものです。

 重要なのは、当該万年筆が、スタートラインとしての書き味として良いのか悪いのか、ということです。スタートラインとして良いペン先ではないのならば、それは調整すべきです。書けば書くほど書き味が良くなるからといって、スタートラインの書き味が悪くても良い、ざらついていて良いわけがありません。そんなペン先を無理に使うのは私も嫌です。
 
 スタートラインの書き味として、問題ないならば、メーカー出荷状態で十分なのです。店頭で調整していなくても、購入する万年筆が問題ない書き味のものか判断することが出来る店員さんのいらっしゃるお店で購入できればより良いと思います。そのような店員さんは少なくないはずです。ご自身で書いてみて、腑に落ちない点があれば、店員さんに、この書き味は、当該メーカーの書き味として、問題があるか、相互に書き合って聞いてみれば良いのです。一見書き味が異様でも、そのメーカーの長い伝統をもった彩りたるすぐれた書き味であることも多いのです。また、もしご不満なところがあれば、自店で調整できなくても、メーカー調整などでどこまでどのように改善できる余地があるかも説明していただくことが可能です。

 ただし、広義の書き味に関連するインキ出については、これは、調整によってお客さんのお好みに合わせることが出来る方が良いです。万人向けの調整方法もないわけではありませんが、よりきめ細やかなご希望に合わせてお納めできることが出来るのがベストです。インキ出が多い方がお好みの方が多いと思われるかもしれませんが、少ない方が良いとおっしゃる方も非常に多いのです。
 なお、インキ出については、軸の中にインキを入れて書いていただかないと特性はわかりません。

調整要素の一部を挙げてまとめてみますと、
●ざらつくかなめらかか、といった狭義の書き味
 →スタートラインとしての書き味として問題があれば調整する必要がある
●インキ出
 →出来ればユーザーの希望に応じた調整が出来れば良いが、現実的に各店舗できめ細やかに対応するのは厳しいのが現実。事後的にメーカーに依頼することは可能と思われる。インキ出は、広義の書き味にも影響する要素。同じペン先でも、インキ出が良いペン芯と悪いペン芯をつけた場合、インキ出が良いペン芯をつけた方が確実に書き味は良く感じる。なお、次のインキ出持続性にも関わるが、軸筒内にインキを入れなければインキ出は判断できない
●インキ出持続性
 →ペン芯や軸の性能いかんに関わることで、基本的に改善は不可能(当方ではペン芯製造設備を利用して不適切なペン芯を追加工することもまれにある)

 私のところでは、書き味やインキ出などはかなり念入りに調整させていただき、最終的に内部にインキを入れて試し、その後インキを入れる前と同じ状態にまで完全にインキを洗い流して出荷しています。
 現実的には各店舗で販売されているメーカー出荷状態の品物は、問題ないものが少なくないです。私のところで販売させていただく場合は、その商品のもつ最高の状態を発揮しているかを各品物ごとに入念に分析します。そして、発揮されていないと判断したときは、発揮するように調整をしています。ただし、よほどのことがないかぎり、メーカー出荷状態のメーカーの意向を無視するような調整はいたしませんし、する必要もないです。

 ちなみに、ペン先が、スタートラインとしてもおよそ形状が異様な場合、先端形状を変更しなくてはなりません。
 最後に、メーカー出荷状態を超えた修理例を挙げてみたいと思います。
 以下は、修理でお預かりしたある海外メーカーのペン先修理前の先端形状(ペン芯側から見た状態)です。
irisen.jpg

このペン先のついた万年筆に対するユーザー様のご不満は、

インキの出に特に不足は感じませんが、ペン先に(ペン先
の先端から見て)スリットが斜め(?)に入っている
せいか、ペン先の先端部の紙に当たるポイントの左右の
大きさが違うように見えます。(素人目判断です)
それが書き味を悪くしているかどうか私には分かりませんが、
文字の書き始めにインキが出ないことが多いので、
書き味調整をお願いします。


ということでした。
 拡大してみると明らかなように、左右のイリジウム幅が不均一です。それ以上にまずいのは、片方のイリジウムのみ山が高いです。
 書き味の悪さ、書き始めのインキ出が悪い点を改善するには、イリジウム形状を適切な形状にしなければなりません。

 なお、本稿は新品の万年筆を前提にしています。中古の万年筆は同様に見ることができないです。 

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