masahiro万年筆製作所製品には、自社製エボナイト素材のペン芯が装着されております
エボナイト製ペン芯(以下、「エボナイトペン芯」、と表記します)は、ペン芯としては最高のものなのですが、現在他メーカーではほとんど採用されておりません
今回は、この、エボナイトペン芯について、ご説明させていただきます
●エボナイトペン芯が優れている理由
エボナイトペン芯がなぜ優れているか、様々なことが言われておりますが、私は、
ペン芯を受ける筒スリーブの方もエボナイト素材にし、いわゆる「総エボナイト」にすることにより、ペン先を硬く装着することができるこの点が、エボナイトペン芯の最大のメリットだと考えております
プラスチック素材のペン芯ですと、素材の柔軟性や素材強度(特にプラスチックは圧縮力にはある程度耐えるが引っ張り力に著しく弱い)から、ペン先装着勘合力はあまり強くできず、一度取付け取り外しを行うと勘合力が低下し、ペン先とペン芯の入り固さが緩くなってしまいます。それにより、ペン先がペン芯とずれてしまい、ペン先裏側とペン芯の接点がずれることにより、ペン先先端が揃わなくなって、書き味やインキ出に影響が出てしまいます。
そのため、メーカー製プラスチックペン芯のペン先・ペン芯を外して分解掃除したときは、極論申せば、一部設計商品を除き、ペン芯を新規部品に交換するのがベストであると考えております
むやみにペン先ペン芯を外すのは禁物です
※当方で販売しておりますパイロット製品は、通常のご使用には問題無い入り固さでペン先が装着されていることを確認してから出荷しておりますので、ご安心下さい
エボナイトは、引っ張り力に耐える力がプラスチックよりは勝るので、硬い勘合に出来まして、古くから、エボナイトペン芯の商品は、ペン先ペン芯は硬くしっかりと入っているものが多いのです。
また、切削によって製造するため、設計の自由度が増し、インキ供給方式に一番ふさわしい設計のペン芯を製作し、装着することができます
※専用に設計された、masahiro万年筆製作所 ダイレクトタイプ・M形吸入方式万年筆専用ペン芯の後部

現在はカートリッジ方式の万年筆が主流であるため、軸自体が吸入方式の万年筆であっても、ペン芯はカートリッジ式のものが装着されているケースが非常に多いです。もちろんそれでインキがスムーズに流れれば良いのですが、ダイレクトタイプやM形吸入方式万年筆は、専用設計のペン芯を用いるに限るのです
ペン芯を吸入設計に合わせて製造することにより、たとえば、ダイレクトタイプでも、後ろさえあければ、スムーズにインキが流れ、軸を強く振ったりしてインキを出しながら書くような必要はないのです
ダイレクトタイプやM形吸入方式万年筆のように、インキ止弁が存在する万年筆の場合、インキ止弁がインキ流れの峠となり、画像のようなペン芯を専用設計しない限り、後部つまみを開けてもインキがスムーズに流れないことが多いのです。
●エボナイトペン芯でも緻密な設計が可能
各メーカーのペン芯を分析してみますと、現代のプラスチックペン芯は確かに緻密に作ってあるように見えます。そのような設計をエボナイトペン芯には生かせないものか、様々試行錯誤し、試作を繰り返して参りました。正直なところ、ペン芯の設計開発や加工は極めて難しいです。インキの流れる溝の幅は極めて細く、ただでさえエボナイトは刃物の切れ味がすぐに鈍る難削材、加工は難易度が高いです。結果的に、プラスチックペン芯の設計をエボナイトに移す設計のエボナイトペン芯の開発に成功致しました。現代の、あるプラスチックペン芯の設計をそのまま反映させたペン芯を切削加工して装着しておりますので、エボナイトペン芯でもプラスチックと同様のペン芯設計を実現しております
過去のエボナイトペン芯は、首内部に隠れるところに、インキをためる櫛溝と言われる横溝が切られていないものがほとんどでした。エボナイトペン芯は首内部に入るところには櫛溝を入れられない、と言われることもありますが、そんなことはありません。私の商品に装着されておりますエボナイトペン芯は、内部にもきっちりと櫛溝を切ってあります。ペン芯外径とスリーブ内径、ペン先の厚みを吟味すれば、問題なく櫛溝を配置できますし、分解組み立てを適切に行えば、櫛溝を折ってしまうようなことは全くありません
むやみやたらにペン芯をたたいて抜いたり、ペン先ペン芯を引っ張ったりすると、溝は傷みますが、masahiro万年筆製作所にて特殊工具を用い適切に分解すれば、ペン先ペン芯は一切傷めることはありません。そのくらい硬いので、使用時に筆圧でペン先ペン芯がずれたりすることは皆無で、ちょっとの力でもびくともしません。非常に安心してお使い頂けます
ただし、首内部に配置されるところまで櫛溝を切るのは、製作の手間が掛かり、細い幅の特殊刃物も独自に調製しなければなりません。見えない部分ではありますが、必要なところなので、masahiro万年筆製作所では、内部も櫛溝を切っております。
櫛溝も、あれば良い、というものではなく、ペン先に近いところほど、櫛溝の幅が広くなくてはなりません。お手元のパイロットなどのプラスチックペン芯をご覧ください。そのようになっていると思います。
masahiro万年筆製作所のエボナイトペン芯も、櫛溝の幅が、以下の画像のように、徐々に広くなっております
※ペン先側面に幅の広い傷のようなものが見えますが、金の表面に周りの景色が反射されて写ったもので、傷ではありません 大手メーカー工場で、ペン芯の製造工程を見学しますと、削って作っているのがばかばかしくなるくらい、簡単に大量に出来ています。ペン芯単体では安価に出来ても、型や成形機は必要なので、決して安価に出来ているわけでもないのですが、それでも、削って作るのが時代遅れのように思うことすらあります
今ではエボナイトペン芯を作っているメーカーも非常に少ないです。ペン芯の設計製造は非常に難しく、加工コストや手間ではプラスチックペン芯には到底かなわないので、無理もありません
私のところでは、エボナイトペン芯を自社生産することにより、多大なメリットがある商品が完成しています。独自のエボナイトペン芯設計製造を今後も継続して参りますので、よろしくお願い申し上げます。
ちなみに、エボナイトペン芯の場合、通常は首内部に入るところには横溝が切られておりませんが、この理由を、エボナイトが欠けやすいから、と説明されている向きがあります。しかし、現在プラスチックペン芯に使用されている一部の素材は、エボナイト以上に欠けやすい素材が使用されています。それでも、首内部に横溝が配置されております。結局は、設計と、見えないところにどれだけ手数を掛けているか、ということに尽きるのです。プラスチックペン芯であっても、設計が悪ければ、内部の溝は容易に欠けますし、首内部の見えないところに溝を切る必要があれば、エボナイトだろうとプラスチックだろうと溝を配置する必要があります。もしエボナイトが本当に「溝配置が実現できない素材」だったら、そもそもペン芯素材としては向かない、と言えましょうか、決してそんなことはないのです。
masahiro万年筆製作所では、プラスチックペン芯の設計でエボナイトペン芯を切削しております。手間は掛かりますが、これがなによりベストと考えております。