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パイロットの新ブルーブラックインキ

みなさんはインキはどのようなものをお使いでしょうか。
以前、おすすめインキについてご紹介したことがあるので、ご参照下さい。

インキは、一度愛着をもつと、なかなか変更できないものです。そのメーカーがこれからもそのインキを継続して生産してくれる、そんなインキを選ぶのがベストです。
大手メーカーが、新しいインキを発売したが、しばらくして製造を中止してしまったこともあります。
その意味では、ロングセラーのインキを使用する方がベストかもしれません。

私は、長い間パーカーのQuinkブルーブラックインキを使用してきました。
当時、周りのたいへん多くの方が、どういうわけか、パーカーのブルーブラックインキを使用しておられました。何本も空瓶を持っております。それだけ本当に良く使用しました。

ただ、パーカーのブルーブラックインキは、ちょっと紙ににじみやすく閉口しました。以前も書きましたが、このことを知己のあった無くなった万年筆専門店主は、「分子が細かい」と言っていました。当時の万年筆専門店のご主人は、こうしたインキ特性の違いをちゃんとご存じだったのです。また、パーカーは、書いた直後(書いた直後、という点は後半でご説明します)の鮮やかさに欠けるので、閉口して、モンブランのブルーブラックをだいぶ使いました。
モンブランのインキはブルーブラックだけが保存用に向く、と書いてあったのも魅力でした。
しかし、パーカーほどではないにしても、若干やはりにじむということと、時間がたったあとの色(この点もどように後述)に閉口して、たどりついたのがパイロットのブルーブラックインキです。
パイロットのブルーブラックインキを使用したら、インキはにじまないですし、書いた直後の色はとても鮮やかで、おまけにブルーブラックなので耐光性も心配ない(と思っていた)ので、安心して使用しました。
これでずっと使用しようと思い、大瓶もだいぶ買いました。
でも、使用していて、沈殿物(いわゆる滓)が少なくないという点に気づきました。

ここで伝統的なブルーブラックインキについてご説明しなければなりません。
ブルーブラックインキは、以前は、今とは配合が全く違います。主成分は、青い染料と硫酸第一鉄・タンニン酸等で、強酸性のものでした。
原理は、瓶の中では、タンニン酸と硫酸第一鉄が、タンニン酸第一鉄に変わります。瓶の中にあるときは、タンニン酸第一鉄は無色で水に溶けやすい性質です。そのため、青い染料で色を付けているだけの状態といえます。
 書いた直後は、青い染料の色です。書いてから時間が経過すると、空気中の酸素により、無色のタンニン酸第一鉄が黒色のタンニン酸第二鉄に変わります。このタンニン酸第二鉄は、いわば顔料と言っても良く水に流れませんし、耐光性もあると言われてきました。色も青い染料と混じって、黒変し、まさにブルーブラック色になります。その後、青い染料は耐光性が無いため消えてしまい黒色のタンニン酸第二鉄の色だけが残ります。昔の人たちの筆跡で、茶色い筆跡を目にすることがあると思います。これは、ブルーブラックインキのブルーが色あせて、タンニン酸第二鉄のブラックだけになった状態に他なりません。

なお、伝統的なインキ消しは、このタンニン酸第二鉄を還元するような成分(シュウ酸など)が1液に入っています。私も、昔、砂糖と硝酸からシュウ酸を作り、それを元に1液をつくり、2液はさらし粉からつくり、インキ消しを自作してみたことがあります。
私は以前ブルーブラックのインキを自分で作ったことがあります。酸化した硫酸第一鉄を還元したり、にじみ防止にアラビアゴムを混ぜたりしました。

伝統的なブルーブラックインキはこのようにブルーからブラックに変色するということから、ブルーブラックという名前がついているのです。

この古典的な旧ブルーブラックインキは、瓶の中で酸素によりタンニン酸第一鉄が第二鉄になり沈殿して滓が溜まるという現象が起きることがあるのです。
そのため、酸素の通気性があるプラスチック瓶ですと、色の変色が激しいです。当時、モンブランやパーカーでは、私も今も持っておりますが、プラスチックボトル入りのインキをガラス製のインキをかなり安く売っていて、お求めになった方も多いと思います。もしかしたら、色の違いに驚かれたかもしれません。原因は、プラスチックボトルにあるのです。カートリッジ式インキもカートリッジがプラスチック(ポリエチレンなど)では通気性があり、変色したり滓が溜まる原因となるので、パイロットの品物などは、アルミの袋に包まれておりました。

滓の多さは各社によって違って、私の経験では、平成3年ころまで発売されていた、あるブルーブラックインキは、とても沈殿物が多く閉口したことがあります。キャップを外すとペン先まわりにびっしり滓が付着していたことがあります。

私は、パイロットブルーブラックインキを、大瓶で買って、良く濾過してこしながら使いました。
パイロットのブルーブラックインキは、書いた直後、紙面に水が流れても、判読不可能な位インキが流れない点も気に入っていました。

しかし、96年、店頭で、パイロットの新しいブルーブラックインキが発売されたことを知ったのです。

気に入っていたインキが変わってしまう!驚いて、当時店頭にあったブルーブラックインキをたくさん買い込みました。
でも、新しいインキを使ってみようと思って、買ってみたら、これが良いのです!

旧タイプのパイロットブルーブラックインキを長く使っていた私は、96年にパイロットのブルーブラックインキが発売されたとき、旧タイプの大瓶をたくさん買い込み、当分使えるほど確保したのですが、新しいインキがどのようなものかたいへん興味があり、使ってみました。

新しいインキは、大瓶が、調味料のようなボトルになり、注意事項として、、従来のブルーブラックとは違うので、使用の際は、ペン先-首部・コンバーターを洗浄を行なってから使用するように書かれています。

書いてみると、書いた直後の色が全く違うことに気づかされます。うまく表現できないのですが、以前のブルーブラックとは違う、独特の色です。藍色といったかんじでしょうか。

すなわち、新しいインキは、硫酸第一鉄を含まない、ブルーブラック色のインキであるということに気づきました。
そのため、滓の心配はいりませんし、実際滓もたまりません。

書いた直後、紙の表面に水を流してみますと、筆跡が水に流れにくいのです。
また、インキ消しでも消えない。
とても高性能なインキだと実感しました。

それ以来、買い込んだ旧ブルーブラックインキは一切使わず、新しいブルーブラックインキをもっぱら使用するようになりました。

ただ、筆跡が水に流れにくいことからも明らかなように、ペン先ペン芯に付着したインキが水に流れにくく、若干の中性洗剤を利用しないとインキは落ちないことが多いです。また、キャップを外して長く放置した場合のように、インキが空気に長くさらされて濃くなったような状態で筆記すると筆跡がにじむという弱点はあります。しかし、この点は、気密性の高いキャップが装着された万年筆(現代の万年筆のほとんどは大丈夫です)を使用し、使用しないときは頻繁にキャップをしていただければ、不便を感じることはほとんどないと思います。

ブルーからブラックに色が変わらないので、古典的なブルーブラックインキではなく、新しいブルーブラックインキと言えましょう。

考えてみると、滓が溜まるというのはとても困った現象です。
ペン芯のインキ溝に、知らぬ間にインキが溜まるのですから。また、水洗いしただけでは滓は落ちず、分解しなくては絶対に除去できないのが欠点です。滓が溜まらない今の主流のインキでしたら、分解しなくても洗浄が可能なことを考えると大きな違いです。滓、すなわちタンニン酸第二鉄は、水に流れず、物理的にこそぎ取るしか除去する方法が無いのです。
もちろん、滓の溜まりやすさや、インキによって違います。この点をかつて雑誌『暮しの手帖』が調査している興味深い記事があります。
また、古典的なブルーブラックインキは強酸性なので、万年筆へのダメージも大きいです。

それを考えると、新しいブルーブラックインキ(はじめからブルーブラック色のインキ)は古典的な配合ではないものの、これからはこのようなインキがベストだと思います。
従来のブルーブラックインキが志向していた耐光性も備えているので、代替として、いや、それ以上の性能があります。
ブルーブラックというと、伝統的な旧ブルーブラックインキにに求められていたように、耐光性を求める方が多いので、新しいブルーブラックが耐光性や水への流れにくさを考慮したのは当然といえます。

こうやって新しいブルーブラックインキを使ってみますと、旧ブルーブラックインキの色の変化というものを考えさせられます。
ブルーからブラックに変色する、ということで、タイマーのような効果、つまり、筆跡の色の濃さによって書いてからどのくらい年が経過しているかを判断できるという効果もあります。しかし、ブルーからブラックに変色するというのは、考えてみると妙です。
また、ブルーが色あせたあとのタンニン酸第二鉄のブラック色も、色が薄かったりして、必ずしも永久保存向けとは言えないような気がします。
以前書いた、ブルースケール試験したときの紙を見ると、耐光性試験していない未処理のところの色を見ると、ブルーブラックのところは、耐光性試験していないものの、すでに18年くらい経過してとっくにタンニン酸第二鉄になっているため、変色しています。青い色と混じってまさにブルーブラック色になっています。しかし、耐光性が良いというそのブルーブラックよりも、ブルーの方が判読できるのです。7級まで試験したものをみても、ブルーの方がはっきり読めますし、かえって、シェーファーのレッドのほうが濃いくらいです。
ブルーブラックインキは実はあまり保存に向かないのではないか、換言すればずっと読みやすい筆跡を残し続けると言うわけではないのではないか、と思いました。

現代でしたら、保存したい書類について、耐光性の高いインキでなくても、インキで書いて、それをコピーすれば良いと思います。

ところで、今、パイロット以外でも、旧タイプのブルーブラックインキは製造されない傾向にあります。各社だいぶ変わってきました。

まとめ
旧ブルーブラックインキ
 紙の上で黒さび(耐水性)を作る
 青染料+タンニン酸第一鉄(このときは青色)→第二鉄(黒さびとなって黒ずむ
 このような成分構成のためビン内部や万年筆内部に入れた状態のときにカスが発生する可能性があった

新ブルーブラックインキ(パイロット社の場合)
 青染料で、非常に耐水性に優れたものになった
 旧ブルーブラックインキの青に近づけた青の染料色のままで、黒変しない
 万年筆に安心して使えるようになった

※双方とも耐光性はあまり変わらない



なお、インキは、クロマトグラフィーの手法で分析するとおもしろく、私もやったことがありますが、かなり専門的になるので、詳細は略します。


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