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エボナイトについて その1 エボナイトとは

 私は万年筆の素材には、主にエボナイトを用いております。
 今日からエボナイトについて少々お話ししてみたいと思います。

●エボナイトとは
 エボナイトは、簡単に定義すると、生ゴムに硫黄を加えて作られる硬質のゴムです(より専門的に端的に申し上げると、ゴムを高架橋した高硬度なゴムと言えます)。プラスチックではありません。ゴムなのです。ゴムではありますが、一般的に想像するゴムとは違って、極めて高い耐久性と、素材形状安定性があります。精密に作っても寸法が変化することがないのです。
 1852年嘉永5年に現在もタイヤメーカー名として残る、グッドイヤーが発明しました。ちなみに、セルロイドは1869年に発明されました。エボナイトが最も古い合成樹脂という表現は完全に誤りです。ちなみにプラスチックは、合成高分子化合物と定義されます。
最初に発明された合成樹脂は1907年にアメリカのL.H.ベークランドが発明したフェノール樹脂(ベークライト)です。

1852年 嘉永5年 エボナイト発明
1869年 明治2年 セルロイド発明
1907年 明治40年 フェノール樹脂(最初に発明されたプラスチック)発明
※セルロイドも、天然の素材を利用して作る「半合成プラスチック」と呼び、セルロイドの方を世界最初に発明されたプラスチックとする向きもあります。フェノール樹脂は、人類が人工の化学物質から作り出した世界で初めての合成樹脂です。
 エボナイトを最初のプラスチックの発明とする向きもないわけではないです。


 さらに詳しく申し上げると、ゴムという物についてご説明しなければなりません。

 ゴムの樹から樹液を採取し、これに酸を加えて固まらせたものを生ゴムといい、天然ゴムの原料となります。
 ゴムの樹の幹の外皮に一定角度の斜めの切り傷を幹の周囲にぐるぐるつけます。そうすると、ゴムの樹の表面近くの乳管組織が傷つけられ、ゴムの樹はその表面を保護しようとして乳液を出します。このゴムの樹からしみ出してきた乳液をカップで受け集めます。この乳液状のものを「ラテックス」(ラテン語で乳という意味)といいます。このラテックスは、ゴムの微粒子を40パーセント含むエマルジョンという状態をしており、ちょうど牛乳のようなものです。ラテックスは、酸を加えると固まります。酸を加えたあと乾燥させます。そのときに、燻製のように低い温度で薪を燃やして乾燥するので、通常の天然ゴムは茶色から濃い茶色に着色しています。エボナイトの削りカスが茶色いのもこの理由からです。ただし、ほとんどのゴムはカーボンブラックを加えるので、黒色をしています。また、着色して困る場合は、別の処理をします。
 このような過程を経て生成した乾燥したゴムを生ゴムと呼びます。

 生ゴムは、(粘弾性を有する液体なので、)一定の形を保つことができないのです。この状態の柔軟な鎖状になった高分子を適当な間隔で隣の分子とお互いに手をたずさえるようにして結び付けて3次元の網目構造にすると、冷却固化しなくても形状を保つことができるようになります。ゴム製品は、生ゴムの分子を結び付けて3次元構造にしたものです。このようにお互いの分子を結び付けて網目構造にすることを「架橋反応」(または「橋架け反応」、単純に「架橋」)と呼びます。天然ゴムでは、生ゴムに硫黄を加えて架橋されるため、架橋させることを「加硫」とも呼ばれているのです。この言葉は耳になさったことがある方も多いと思います。今では硫黄を使わない架橋も増えておりますが、加硫と言う言葉一般的に使用されています。
 架橋は、化学的な結合であり、温度を上げても分子間の結合は外れないため、流れ出ず、成形ができません。そのため、ゴム製品を作る際は、まず、まだ橋を架けていない状態のゴム生地(鎖状分子)を任意の形に成形し、その後成型品を加硫釜に入れ所定時間加熱し、架橋反応を起こさせます。

 ご承知の通り、ゴムは、もとは上記のように分子間の拘束力が小さい鎖状高分子で出来ているため、簡単に変形します。しかし、輪ゴムなどに接しても明らかなように、反発弾性(力を除くとすぐに元の形状に戻る性質のこと)があります。
 もともとゴムは、分子間の拘束力が小さいものの、架橋され、分子鎖同士のところどころで隣の分子と結び合わさっているので、分子同士が自由には移動できず、力を抜けば元の位置に戻ります。力を加えると架橋と架橋の間の分子鎖が変形し、力を除くと元に戻ります。分子同士の結び目がゴムの反発弾性を生んでいるのです。この点、軟質のプラスチック、たとえばポリ袋などは、小さく握りしめて手を開くと元に戻ろうとはしますが、ゴムに比べて著しく遅く、完全にもとの形状に戻ることはありません。ポリ袋が少しずつしか元に戻れないのは、プラスチックはゴムのように分子間に橋が架かっておらず、分子同士が拘束されていないので、握りしめたときに起きた分子鎖間のずれが急に元に戻れないためです。完全に元の形に戻らないのは、変形した状態で分子が落ち着いたためです。
 ゴムは架橋により、分子間が拘束され、通常の高分子より元の形に戻る性能が強化されているのです。
 ゴムとしての反発弾性を発揮させるために必要な架橋の程度はそんなに多くはなく、炭素数で数十個おきに1個程度架橋させてあります。このように架橋されたゴムが一般に皆さんが想像されるゴムです。

 一方、架橋密度は変えることができ、架橋が少ないと上記のように反発弾性があるのですが、あまり少なすぎると反発弾性が落ちます。逆にこの架橋密度(加硫度)を極端に高くし、極限まで架橋して分子同士を完全に拘束すると、反発弾性があるゴムからは想像出来ないくらい硬いゴム、つまりエボナイトになるのです。正確には、エボナイトの状態を、「ガラス転移温度が室温以上に強く架橋された」状態※と言います。

※生ゴムの段階では、ガラス転移温度は-100℃以下で液体状態、通常のゴムの状態ではガラス転移温度は室温以下に架橋され液体であるが形を保ち、エボナイトではガラス転移温度が室温以上になるように強く架橋されて硬い固体の状態です。
 従って、輪ゴムを-100℃に冷やすと硬いエボナイトと同じ状態になります。温度を下げても架橋と同じような効果になります。このことは、「ガラス転移温度」という概念で理解するとわかりやすいです。

 分子に橋を架けるコントロールによって特性の違ったゴムを作り出すことができるわけです。

 加硫について、硫黄を15パーセント以下にすると、柔らかで弾力に富むゴム製品となり、タイヤ、ホース、ベルト、パッキンなどに使用されます。具体的に輪ゴムや軟質ゴムでは4~6パーセントくらいです。30パーセント以上加えたゴムをエボナイトというのです。
 前述のように架橋されたゴムは加熱されても流動化しないので、熱可塑性プラスチックの成型方法が適用できません。成型方法がとれないので、エボナイトを用いて万年筆などを精密に加工するには切削加工しなければならないのです。

 架橋密度の違いにより特性が違うという点は、純鉄に含まれる炭素の量によって鉄の性質が激変することと似ています。少ないと極軟鋼、多いと鋼(はがね)に、さらに多く含ませると鋳鉄になり溶融性が向上します。

 なお、現在では、ゴム以外のプラスチックでも架橋を利用することもあり、ポリエチレンなどを成形後に架橋させると高温になっても変形しにくくなります。

 架橋したものは溶かして簡単に再利用することが出来ないため、リサイクル技術・廃棄物対策が重要です。
 この点以前エボナイトは削りくずまで完全にリサイクルしていたことは注目に値します。

 エボナイトを発明したのは、現在タイヤメーカー名で残っているグッドイヤーです。

 エボナイトの語源は、黒檀のエボニーから来ているようです。

 硫黄によってゴムの鎖状高分子に橋を架けるように拘束したものがゴム、多くの硫黄によって、完全に拘束したものがエボナイト。しかしながら、その多く含んだ硫黄が変色したり曇ったり、エボナイトを独特の性質にさせるのです。この点は鋳鉄と非常に類似性があり興味深いです。こういったエボナイトの特徴や欠点は後述します。

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 masahiro万年筆製作所  代表者 内野成広

Author: masahiro万年筆製作所  代表者 内野成広
総エボナイト製手作り万年筆を製造しております
一切の妥協を許さない完全な商品を目指し、生涯唯一の職業として励んでおります
ペン芯までエボナイトで製造している数少ない万年筆メーカーです。

また、株式会社パイロットコーポレーション 正規販売店として、パイロット商品の販売をいたしております。

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